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東京高等裁判所 昭和62年(行コ)48号 判決 1990年1月30日

東京都調布市緑ケ丘二丁目一二番三七号

控訴人

坂田健一

右訴訟代理人弁護士

盛岡暉道

東京都府中市分梅町一-三一

被控訴人

武蔵府中税務署長

中川精二

右指定代理人

波床昌則

石黒邦夫

關口信一

安達繁

渡邉定義

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五〇年三月一四日にした控訴人の昭和四六年分ないし昭和四八年分の各所得税についての各更正並びに昭和四六年分の所得税についての無申告加算税の賦課決定並びに昭和四七年分及び同四八年分の各所得税についての過少申告加算税の各賦課決定(ただし、いずれも異議決定及び審査裁決により一部取消し後のもの)をいずれも取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事実適示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決七枚目裏一〇行目の「領収書」の次の「の」を削り、同八枚目票四行目の「思慮される」を「思料された」と改める。

2  同二三枚目表六行目の次に改めて次のとおり加える。

「四 外注費実額計算について

昭和四六年分ないし昭和四八年分の各外注費の実額計算が可能なことについて、補足して主張すれば、以下のとおりである。

1 控訴人が当審において新たに提出した仕切書六冊(甲第七四号証ないし第七九号証)をも併せて検討すれば、仕切書と判取帳、領収書とが一致しない割合は、昭和四六年分が一五・六五パーセント、昭和四七年分が一一・八六パーセント、昭和四八年分が八・一七パーセントに過ぎず、それ以外の八五ないし九二パーセントは、仕切書と判取帳、領収書の記載が一致するか、内容的に一致している。このように、外注費の原始記録総数の八五ないし九二パーセント以上を占める仕切書と判取帳等の記載の一致しているもの、ないし一致していると同視できるものをことごとく否定し去つて、仕入れ、外注費等の経費をひとまとめにして、売上額に経費率をかけて一律に必要経費を推計するなどということは暴挙に等しい。

2 なお、被控訴人の主張するように、原審において控訴人が提出した仕切書綴りの中には、何人かに対する外注のうち、特定の月分の仕切書が存在しないものがあるが、これは、当審において提出した仕切書六冊を見ると明らかなとおり、控訴人が同じ仕切書綴りの中に何件もの外注先の仕切りをしていたため、ある月分の仕切書綴りが紛失すると、そこに記載されていた数件の外注先に対する仕切書を紛失するという結果になつたことによるもので、特に不自然なことではない。」

3  同二三枚目裏末行の次に行を改めて次のとおり加える。

「四 同四は争う。

1 仕切書と判取帳等との対応関係に関する控訴人の主張は、独自の検討結果に基づくもので、採りえない。被控訴人の検討結果によれば、仕切書と判取帳等との対応関係は、別表(一)ないし(三)のとおりであり、その不突合割合は、別表(四)のとおり、昭和四六年分が一八・七七パーセント、昭和四七年分が一四・一八パーセント、昭和四八年分が一三・四六パーセントである。

また、本件の場合、控訴人の提出した判取帳の記載のみでは支出の正否が検証できないから、外注費の計算に際しては、仕切書の一部又は別紙のみ紛失したもの、仕切書を作成しないもの及び仕切書と判取金額とが不突合のものは不突合件数の中に加えるべきものである。そうすると、外注費の不突合割合は、別表(四)のとおり、約三〇パーセントにものぼるから、当該書証の信憑性が薄いことをも併せ考慮すれば、これに基づく実額計算は到底不可能である。

2 控訴人の事業規模からすれば、一般的な左官工事業の工事受注ないし外注方法、経理方法を経なければ、工事全体の損益を正確に把握することは困難である。しかるに、控訴人が外注費の証拠として提出する書証は、照合不可能ともいえる仕切書と判取帳等だけであつて、それを裏付ける会計帳簿も記載不完全な売上ノート(甲第一、二号証)のみである。しかも、控訴人提出の仕切書と判取帳には多数の不突合があり、また、日々記録される他の会計帳簿や原始資料の提出がなされていない以上、これらの仕切書と判取帳が現場及び取引に接着して作成されたという保証もない。してみれば、本件においては、これらの点から実額計算することは不可能といわなければならない。」

4  同二四枚目表一行目冒頭の「四」を「五」と改め、同八行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「課税庁が推計課税について一応の主張立証をしている場合において、納税者が実額課税を主張し、推計課税がその実額と異なるとして推計課税を争う場合には、納税者がその実額の存在について主張立証責任を負担するものというべきである。

しかして、その場合、実額反証とは、直接資料により真実の所得の額を立証し、推計課税の合理性を覆すことをいうのであり、納税者はその主張する実額が真実の所得の額に合致することを証明しなければならないものであつて、その主張立証の対象は、実額反証を主張する納税者が単にその主張する収入及び経費の各金額を証明するだけでは足りず、その主張する収入金額がすべての取引先からのすべての収入金額(総収入金額)であること、あるいはその主張する経費の金額がその収入と対応する(必要経費である)ことまで具体的に主張立証しなければならないものというべきである。

しかるに、控訴人は、本訴において、必要経費に関し、控訴人が認めた被控訴人の反面調査に基づく工事収入が控訴人の取引先からのすべての収入金額(総収入金額)であること、あるいは控訴人の主張する必要経費が工事収入金額と対応するものであることを主張立証していないから、その実額主張は失当というほかはない。」

三  証拠関係は、原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二六枚目裏七行目、同二七枚目表一〇行目の各「同坂田澄江」をいずれも「原審における証人坂田澄江」と改める。

2  同三三枚目裏四行目の「反論四」を「反論五前段」と改め、同一〇行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「また、被控訴人は、実額反証を主張する者は単にその主張する収入及び経費の各金額を証明するだけでは足りず、その主張する収入金額がすべての取引先からのすべての収入金額であること、あるいはその主張する経費の金額がその収入と対応することまで主張立証しなければならないとして、控訴人がその点について何ら主張立証をしていないことを論難するが(控訴人の主張に対する認否、反論五後段)、要は、具体的に収入に対応した経費が立証できるか否かの問題であるから、以下その点について検討する。」

3  同三三枚目裏末行の「原告本人」から同三四枚目裏表一行目冒頭の「る」までを「前掲」と改め、同行及び同裏七行目の各「証人坂田澄江」の前にいずれも「原審における」を加え、同三六枚目表一〇行目の「同坂田澄江」を「原審における証人坂田澄江」と改める。

4  同三七枚目表三行目の「七種類」の次に「(いずれもコクヨ印のもの)」を、同四行目冒頭の「一」の次に「、第七号証」をそれぞれ加え、同行の「三種類」を「四種類(コクヨ印のもの三種類、ヒサゴ印のもの一種類)」と改め、同五行目の「二二」の次に「、第七四号証ないし第七九号証」を、同行の「三種類」の次に「(コクヨ印のもの一種類、ヒサゴ印のもの二種類)」をそれぞれ加える。

5  同三七枚目裏四行目の「かかわらず、」の次に「昭和四七年分と」を加え、同七行目の「及び昭和四七年分」を削り、同九行目の「見受けられる。」の次に「なお、原審における控訴人本人尋問において、控訴人は、数種類の仕切書を使用したことについて、記入内容の多寡により仕切書を使い分けた結果によるものである旨供述するけれども、控訴人提出の仕切書を通覧すれば、昭和四六、四七年分のものはほとんどコクヨ印のものであるのに対し、昭和四八年分のものはほとんどがヒサゴ印のものであり、必ずしも控訴人の供述するように、記入内容の多寡により使い分けたものとはいえない。また、控訴人は、前記控訴人本人尋問において、三鷹市を所在地とする株式会社坂田工業なる法人名等が印刷された仕切書を使用したのは、これが余つていてもつたいなかつたからである旨供述するけれども、昭和四八年分の仕切書の中で、甲第一六号証の三の作守俊夫に対する仕切書(同年三月分から一一月分の合計一六通)だけはなぜかこれが用いられていない。更に、控訴人は、同じ仕切書綴りの中に何件もの外注先の仕切りをしていたというのであるが、そうであるとすれば、なぜ作守俊夫に対する仕切書だけ他と異なつているのか、なおさら不可解である。」を加える。

6  同三八枚目表三行目の「ものがある」の次に「(合計一〇枚)」を加え、同一〇行目の「更に」の前に「なお、この点について、当審における証人坂田澄江は、右の仕切書は控訴人が控えておいた手帳やメモをもとに書き直したものであり、それらの手帳やメモは現に控訴人の手元にある旨証言するけれども、控訴人において、これらの手帳やメモを証拠として提出しているわけではない以上、右証言部分は直ちに採用し難いものといわなければならない。」を加え、同裏四行目冒頭から同七行目の「の)」、」までを「なお、控訴人の主張の中には、仕切書の存在だけで外注費の実額を主張しているものもあるが、」と改める。

7  同四〇枚目表五行目の「原告主張の」から同裏二行目末尾までを「控訴人主張の外注費の中には、当審において新たに提出された仕切書を含めて検討しても、別表(一)ないし(三)のとおり、判取帳又は領収書に対応する仕切書のないもの、仕切書はあるが判取帳に記載のないもの、仕切書の一部である「別紙」等がないものが存在し、これに相当する額は、本件係争各年分とも少なからざる額にのぼつている。なお、控訴人は、この点に関して、当審において新たに提出した甲第七四ないし第七九号証を含めると、仕切書の八五ないし九二パーセントは判取帳、領収書と記載が一致する旨主張するが、控訴人が仕切書と判取帳、領収書とが一致するとして算出した数字は、仕切書の一部又は別紙部分のみ紛失のもの、仕切書が作成されていないもの、仕切書と判取帳、領収書の記載が一致すると同視できるものを含めたものであつて、これらを全部一致するものとみてよいかどうかはなお検討すべきものがあり、一概にその数字が正しいとみることはできない。」と改める。

8  同四一枚目表五行目の「別表四ないし六のとおり、」を削り、同裏二行目の「そして」の前に「この点につき控訴人は、外注先ごとに仕切書を作成したのではなく、同じ仕切書綴りの中に何件もの外注先の仕切りをしたため、右のような特定の月の仕切書が紛失する結果が生じているものである旨主張し、これに副う書証として、当審において、計六冊の仕切書綴り(甲第七四ないし第七九号証)を提出しているけれども、これらの仕切書綴りを見ても、いずれも数か所の外注先ごとに作成されており、しかも大体一年分が一冊としてとじられているのであるから、これによつても、前記のように、同一人に対する外注のうち、特定の月の仕切書のみが存在しないという不自然さが残り、これに対する疑念を払拭することはできない。加えて、当審における証人坂田澄江の証言によれば、これらの仕切書綴りは、一審判決後に、控訴人方にある昭和四九年分と昭和五〇年分の仕切書等を入れた段ボール箱の中に入つていたのが発見されたというのであるが、かかる発見の時期、経緯に照らしても、果してそれが取引に接着して作られたものか疑問を禁じえない。現に、かかる仕切書綴りの中には、甲第七八号証の四枚目のように、一審で提出されている仕切書と同一の外注先(寉本浩吉)で、同一付(昭和四八年一一月二七日)、同一様式(ヒサゴ印3別(ほA))の仕切書が存在するのであつて、この二通が別々に保管されたとは容易に考えにくいのである。」を加え、同八行目から次行にかけての「その支払われたとされる金額に対応する記載」を「その支払の事実を明らかにする記載」と改める。

9  同四二枚目表七行目の「あつても、」の次に「別表(一)ないし(三)のとおり、」を加え、同裏四行目末尾に「なお、当審における証人坂田澄江は、仕切書に記載されている金額と判取帳に判取りされている金額とが一致しない理由について縷々証言するけれども、総じて推測に基づくものであるか、客観的根拠に欠けるものであり、また、同証人は、みずから判取りに赴いているわけでも、またみずから仕切書を作成しているわけでもなく、本来仕切書に記載されている金額と判取帳に判取りされている金額とが一致しない理由について、これを詳らかにできる立場にあるものでないから、同証人の証言によつても、前記判断を覆すに足りない。」を加える。

10  同四三枚目裏五行目の「これらの」を「これらを」と改め、同七行目及び同四四枚目表四行目の各「証人坂田澄江」の前にいずれも「原審における」を加える。

11  同四四枚目裏八行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「このことは、控訴人が当審において新たに提出した仕切書六冊によつても変わりはないものというべきであり、前示のとおり、これらの仕切書自体に疑問があり、かつ、これによつても控訴人提出の原始書類の疑問点が払拭されない以上、控訴人の実額主張を認めることはできないのである。」

二  よつて、控訴人の本訴請求をいずれも棄却し原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 川波利明 裁判官 近藤壽邦)

別表(一) 昭和46年分外注費に係る控訴人未提出書証の内訳表

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別表(二) 昭和47年分 外注費に係る控訴人未提出書証の内訳表

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別表(三) 昭和48年分 外注費に係る控訴人未提出書証の内訳表

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別表(四) 仕切書と判取帳等の不突合割合表

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